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[小説]やたらおなかが空虚でふくらんだのだった

 やたらおなかが空虚でふくらんだ。ぷくーと1メートルくらいふくれあがったので、立ち上がることができないのだった。空っぽがつまったおなかは、とんでもない質量なのであった。
 かろうじてできるのは、手足をジタバタさせることくらいだった。そうしてバタバタさせていると、なんだかだだをこねる子どものようだった。たとえ大きな体でも、子どもなのだった。
 キョロキョロ見回すと、といっても頭を左右に振ることしかできないのだが、窓ガラスの薄いレース地のカーテンから西日がさしていて、それが体をあたためていることがわかった。カーテンをよおく見ると薄汚れていた。ガラスも薄汚れているに違いなかった。掃除した記憶などなかったからである。そうして薄汚れたガラスとカーテンをとおった光が、体をあたためているのであった。
 寝ようかな、と思ったけれど寝過ぎだった。少しぼーっと考えて、外に出たい、と思った。ジタバタするのも少しは楽しいのだけれど、飽きてしまうと、もう何もすることがないのである。
 だが外に出ようにも、おなかがじゃまでなにもできない。おなかにはたっぷりの空虚がつまっているのである。歩くことも、そもそも立ち上がることもできなかったが、この、太陽の光のようにカーテンもガラスでさえも、通り抜けることはできないだろうか、もしくは空気のように窓のサッシの隙間から出られないだろうか、そんなことを考えていると、大きなおなかのまま、空中をフワフワと浮かんで、風に煽られて飛んでいる。屋根を越えて、あぁ高いな、怖いな、と思っているとさらに煽られて上空にのぼっていく。少しの風でも、おなかが抵抗になって、大きく流される。
 落ち着いたところで、手足をジタバタさせると、少しはコントロールができるようだった。だが、そもそも行きたい方向などなかった。それに疲れるのだった。
 のぼったりさがったりを繰り返して、そのうちだんだんと、落ちていった。少し強めの風で、一気に地面の方へ向かっていった。しめた、と思って、おなかに力をこめると、どんどん落下していくのだった。どんどん落下していって、少し心配になっていると、そんなことを考えているあいだに、すーっと着地した。無事に横たわっている。どうやら、誰かの家の庭のようだった。
 あら、と声がした。声がしたものの姿が確認できなかった。高年の女のようで、足の方向から近寄ってきた。
 まぁ、どうしましょう、これは燃えるのかしら、燃えないのかしら。
 捨てないでください。家に帰りたいです。
 あら。それなら、来たときのように、空を飛んで帰ればいいじゃない。
 もう飛べないのです。体が鉛のように重たくて。
 まぁ、困りましたね。
 ええ、困りました。
 この風船みたいなおなかを割ってみたらどうかしら。
 なんてことを言うんですか、あなたは。このおなかは誇りのようなものですよ、割るだなんてとんでもない。
 そんなことを言わずに割ってみましょう。
 女の行動を止める術などなく、せいぜいジタバタしているうちに、手芸用の針のようなもので、ふくれたおなかは突き刺されたのだった。
 ぷすぅ、と頼りない音をたてておなかから空虚が抜けて出ていった。みるみるうちにおなかがしぼんでいった。
 地面に手をついてゆっくり立ち上がると、なんてことはなかった。すたすたと足で歩けた。
 ご迷惑をおかけしました。
 いえいえ、無事でなによりです。
 歩いて家に帰ると、やっぱりやることがなかった。やることがないので寝ていると、おしりがふくらんできた。おしりがぷくーと1メートルくらいにふくらんで、うつぶせのまま、何もすることができなくなってしまった。
 おしりの中には何が入っているのだろうと考えたが、途中でやめてしまった。おなかに重みがかかって、例の穴のぶぶんがしくしく痛んだ。


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