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[小説]犬だと思ったらまじゅうだった

 犬だと思ったらまじゅうだった。コンビニの前にちょこんと大人しく座っている犬の頭をなでようとしたら、ちょっと触れたとたん手が半透明になってしまった。右の手首から先が透けてしまったので、すっかり泡を食って、誰にも見られないように、右手の先を上着で隠しながら、その場から逃げた。
 自転車で片手運転をして、大急ぎで家に逃げ帰ってから、あ、めんぼう、買ってないな、と気づいたけれど、もう一度行く気にはなれなかった。

 母は、なにやらしながら、こたつに入っていてお茶を飲んでいた。チョコレートの包み紙が散乱して、ずるいな、と思った。すかさず、母のチョコレートを左手でとって口にいれた。
 ねえ、おかあさん、どうしてくれるの、犬だと思ったらまじゅうだったの。
 まじゅうってなあに。
 まじゅうはまじゅうじゃない。ほら、手が。
 右手を見せると、母は、あら、まあ、どうしたの、まあ、どうしたの、あららららとしきりに心配しだした。
 まじゅうだもの、どうしようもないって。
 だからまじゅうってなあに。どうしたの、これ。あらららら。
 なおる方法なんてないに決まってる。
 お医者さんに見せればなんとかなるわよ。今日はもう遅いから、ねえ、明日にしましょう。明日、いっしょに病院に行ってみましょう。そうしましょう。
 うなづいて、手をひっこめた。そうしたら涙があふれない程度にじわじわしみ出してきた。右手だけじゃあなくて、全身すけすけになればよかったんだ、と思った。そうすれば涙があふれでるくらい悲しいに違いなかった。
 それから部屋にこもってめそめそした。食事をとる気にはなれなかった。
 夜遅くに、父が帰宅して、一番にその話題になった。めんどうくさいので、ちらっと見せるだけ見せて、すぐに部屋にひっこんで、やっぱりめそめそした。
 翌日、目がさめて右手を見ると、昨日よりも濃くなっているようだったので少し安心した。居間では父と母がすでに食事をはじめていた。
 おはよう、どう? 具合の方は。
 おはよう。なんだか、よくなってるっぽい。
 そういって見せると、
 本当。ちょっとよくなってる、良かったじゃない。お医者さんはどうしましょう。9時半頃出ようと思っているんだけど。
 いいよ、もう、よくなってるっぽいし。
 でも診てもらった方がいいんじゃない?
 いいってば。
 そう? 行ってみたほうがいいんじゃない?
 だから、いいって。
 母は心配そうな顔をしていた。だけど今日は、お医者を拒んでめんぼうを買うことにしたのだった。手袋をして隠して、コンビニまで行くのだった。
 したくをして自転車にまたがって、近所をふらふら蛇行していると、猫がいた。どこぞの家のブロック塀の上に、大きくて茶色な猫がでーんと構えていたのだった。
 思わず自転車から降りて、目を細めて、にゃーんとかなんとか声を出して、近づいていくと、逃げない。調子に乗って、左手でふれたら、ライオンだった。猫だと思ったらライオンだった。見事にかまれて、泣きながら家に帰った。


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